美術商・画廊の方が事業を展開するうえでは、作品の売買だけでなく、展覧会の開催、関連グッズの制作等を通じて種々の取引が発生します。その際には、取引の相手や作品に問題がないかの事前調査や、作家が有する権利との調整、売買や展覧会等の開催にあたっての条件の交渉等が必要になります。また、こうした交渉を行い、トラブルの予防に努めた場合でも、法的トラブルが発生してしまう場合もあります。
このページでは、美術商・画廊の方が事業を展開するうえで注意すべき法律関係と、弁護士がどのように機能するかについてをご説明しています。
①盗品や横領品など、売主が正当な売却の権限を持っていないために、購入した美術品の所有権を得られないリスク
②作者等の情報が誤っていたことから美術品の価値が想定よりも低くなり、買主から契約を解除されたり損害賠償責任を問われるリスク
③盗品の取引等に関与したことで刑事罰に処せられたり、各種団体の倫理規程に違反する責任を問われるリスク
これらのリスクを回避するため、美術品の取引においては、取引相手・出所来歴・対象物の状態や出品履歴等の調査を行うことが必須の対応です。
美術品の取引に関する事前調査を弁護士に依頼されることにより、個別の取引に応じて法的観点から適切な事前調査を実施し、美術品取引のリスクを最小限に抑えることが可能となります。
美術品を売却するにあたっては、作品の広告宣伝のための展示や展覧会の開催、作品に関する情報発信等を行うことがあります。美術作品は通常、作家(アーティスト)が著作権を有していることから、美術品売却のための各種活動がアーティストの著作権(に含まれる権利)を利用することになる場合、一定の例外を除き著作権者であるアーティストの許諾を得るなど、調整が必要になります。
例えば、展覧会の紹介のためポスター等を制作するにあたって、説明の便宜上必要な範囲で作品の写真を掲載する場合、掲載する写真の大きさや解像度等に応じて著作権者であるアーティストの許諾を得る必要があるかどうかが変わってきます。また、作品のキャラクターやデザイン等を用いた商品(グッズなど)を製作・販売する場合も、アーティストに著作権や意匠権があることが通常であり、商品製作・販売にはこれらの権利者との調整(権利者の許諾)が必要となる場合があります。
こうした場合には、著作権等の利用についてトラブルが生じないよう、契約書を取り交わして条件面を明確にしておくことが紛争予防の観点からは重要です。
このように、美術品を売却するうえではアーティストがもつ権利関係の調査・調整が必要となります。
これらの調査やアーティストとの交渉を弁護士に依頼されることで、アーティストとの権利侵害に関する無用な紛争を回避しすることが可能となります。
美術商・画廊が作品を第三者に売却する場合、いったん美術商や画廊がもとの所有者やアーティストから作品を買い取って売却する場合(仕入販売方式)と、美術商や画廊がもとの所有者やアーティストから作品を預かって販売の委託を受け、もとの所有者やアーティストのために買主を探して売却を行う場合(委託販売方式)があります。また、美術商・画廊どうしでの売買では、売主である美術商が仲介者である美術商に売却を依頼し、美術品を預けるものの、美術品が売却された時点で仲介者が美術品を買い取った形式にする消化仕入販売という特殊な慣行もあります。
これらの販売方式の違い、また国内取引と海外との取引との違いなどにより、個々の取引によって適用される法律関係は必ずしも同一ではありません。さらに、個々の取引において、特別の条件を付けるという場合も想定されます。
種々の美術品をスムーズかつトラブルなく売却するためには、美術品や取引相手の特性に応じた適切な販売方式や条件を設定し、これらの取引条件に応じた契約書面を取り交わすことが、トラブル防止の観点から非常に重要になります。
弁護士に依頼をされることにより、個々の取引関係に即した適切な取引条件を交渉し、契約書の作成・取り交わしを安全かつ迅速に行うことができるようになります。
美術品の取引を事業として行う美術商・画廊に対しては、古物営業に関する規制等の法規制が課されます。また、国際取引においては、国際美術商・骨董商連合会(Confédération Internationale des Négociants en Oeuvres d’Art)の倫理規程などを遵守することも期待されます。このように、美術品の取引を行うにあたっては、こうした各種の規制に違反をしていないかという点も慎重に判断する必要があります。
弁護士に依頼をされることにより、各種規制の遵守体制を確立し、規制の改正等に迅速に対応することができるようになり、安定的かつ継続的に取引を行うことができるようになります。
美術商・画廊の事業展開において、特定のアーティストの作品の売却を専属的に引き受け、アーティストに対しては特別展(個展)の開催など営業や作品制作の支援を行う場合があります。こうした場合、美術商・画廊とアーティストの間でより強固な信頼関係を構築し、売却をめぐるアーティストとのトラブルを回避する観点からは、あらかじめ美術商・画廊とアーティストとの間でマネジメント契約を取り交わし、作品制作や作品の著作権の扱い等について協議・決定しておくことが望ましい場合があります。
弁護士に依頼をされることで、弁護士がアーティストとの間での条件面等についての交渉を担い、美術商・画廊及びアーティストの双方にとって納得のできる、適正かつ合理的な条件を定めることができます。これにより、美術商・画廊のビジネスの拡大に寄与することができます。
上記のほか、作品を美術館等に貸し出す際の条件面の調整・交渉及び契約締結の代行、出版社や美術館など第三者と展覧会を共催する場合の条件面の調整・交渉の代行など、画廊・美術商がビジネスを展開するうえでは種々の法的交渉が必要になる場面が数多く存在します。
こうした各種交渉場面において、美術品の法律関係に詳しい弁護士が介入したり、交渉を代行することにより、より適正・合理的な条件を設定することができ、トラブルを回避しビジネスの拡大に寄与することができます。
上記のような法的トラブルの予防対応を行っていた場合であっても、実際のトラブルを100%回避できるわけではありません。実際に取引相手やアーティストとの間で法的トラブル・紛争が生じた際には、当事者双方の要求・譲歩できる点などを精査しながら合理的な解決を目指すための紛争解決交渉を行う必要があります。また、交渉によっても解決ができない場合には、訴訟対応等を行う必要があります。
アートに関する法的トラブル・紛争には、真贋や出所来歴等きわめて専門性の高い争点が発生しやすいことや、市場が比較的閉鎖的であるといった特徴があります。また裁判所を用いる訴訟においては、裁判官によって美術品に関する専門的知識を有していないという場合も多く、代理人である弁護士がそうした専門的知識を裁判所に教示する必要がある場合も少なくありません。場合によって訴訟以外の解決手段を採ることが望ましい場合もあります。
美術品に係わる法律問題に精通した弁護士に交渉や訴訟対応を依頼することにより、こうした法的トラブル・紛争をより迅速かつ合理的に解決することができます。